【感想・ネタバレあり】映画『シャイニング』
子供の頃、長期休みのたびに帰っていたおばあちゃんのお家。行けば目いっぱい甘やかしてくれるし、美味しいご飯も食べられるしで子どもにとっては天国のような場所だったが、わたしにとって一つだけ苦手なことがあった。
夜、トイレに行くのが怖いのだ。
祖母の家は3階建てで、2階が居間と台所、3階が祖父の部屋と物置、そして1階に玄関とお風呂とトイレがある間取りだった。だいたい泊まるときは居間に布団を敷き詰めてみんなで寝るので、当然トイレに行くには階段を降りなければいけない。
そうすると階段を降りるたびに正面に玄関のドアが目に入る。昼間は別になんも思わないのに夜、電気がほとんどついてない玄関のドアがなぜかとても不気味に感じられ、怖かった。ひとりでトイレに立つのが嫌で、かといって親や祖母をわざわざ起こすのも情けなかったので、祖母の家に遊びに行ったときはよくトイレを我慢したものである。
人間慣れない建物に寝泊まりするだけで、ストレスだったり恐怖を感じたりするのかもしれない。
前置きが長くなったが、そんな夜のおばあちゃん家と同じ不気味さを感じたが、今回観た『シャイニング』だった。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と同じく、曲がりなりにも映画好きを公言しているのにも関わらず、この『シャイニング』をわたしは観ていなかった。再び懺悔しておく。すみません。
観なきゃ観なきゃと思いつつも、わたしはホラーが苦手なのでなかなか手が出ずにいたのだが、先日TV放映された『レディ・プレイヤー1』を観直して、いよいよ本作をちゃんと観なければ、という謎の使命感に駆られる。結果、ひとりで観るのは怖いのですでに鑑賞済みの相方氏に頭を下げて一緒に観た次第である。
いざ観てみると、思っていたよりも怖くなく、ホラーとうよりサスペンスに近い印象だった。かの有名なダニーの三輪車をキイコキイコするのを後ろから追っかけるシーンや、ジャック・ニコルソンのドアの裂け目からこんにちはのシーンを観たときは、思わず「おお!」と声を挙げってしまった。
ただ、一貫して不気味な雰囲気が伝わってくるものの、ストーリーは説明不足が否めなかったと思う。
当時からすると最新のカメラ設備やキューブリック監督の強いこだわりから生まれた映像が評価されているようだが、前評判なく素の目で観たとして本作を名作だったと思えるかは若干疑問である。
原作者のスティーブン・キングも本作に対してあまり良い評価をしていないのも納得である。原作では家族思いの父が少しずつ狂っていく姿が描かれており、そこに読者は思い入れと恐怖を感じるようだが、映画のジャック・ニコルソン演じるジャックは最初から不安定感がすごいし、家族への愛もあまり感じられない。あれじゃあ「さもありなん。やっちまうだろうな」と誰もが思う。
タイトルである超能力「シャイニング」についても、そこまで活かせていない。長い時間をかけてはるばるホテルに戻ってきてくれたシャイニングホルダー・ハロラン料理長のあまりのあっけない最後には別の意味で声が出てしまった。ヒーローじゃなかったんかい。
ストーリー的にはジャック・ニコルソンの不安定さはもう少しメリハリがあっても良さそうとは思う一方で、彼の狂気の演技はさすがである。
わたしの中でジャック・ニコルソンといえばジョーカーなのだが、本作でもバーでお酒をあおるシーンあたりから顔芸も大きくなり、ジョーカー感が出てきて、わたしの求めるジャック・ニコルソンの演技だった。あのアヒル唇と上目遣いがたまらんのです。
本作で一番気にいったのは、あのバーでバーテンダー・ロイドに愚痴をこぼすシーンだ。今後あのバーのシーンは観るたびに酒が飲みたくなるだろう。
次は続編の『ドクター・スリープ』を観る予定。少しは『シャイニング』の謎を明かしてくれるのかな?