【書評】『ボトルネック』【ネタバレなし】
前回記事の『儚い羊たちの祝宴』もそうだが、最近は新しく本を買わずに手持ちのモノを読み直すことにしている。
読み直すことで新しい発見もあるし、ビジネス書や実用書は内容をほとんど忘れていることに気づく。読書を血肉にするってのは難しいね。
ということで前回に引き続き米澤穂信さんの小説『ボトルネック』を読み直したので、記事にしておく。
本の紹介
本書のあらすじを簡単に説明する。
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お世辞にも明るく快活とは言えない、作中の言葉を借りると「死んだ魚の目」をした高校1年生、嵯峨野リョウは東尋坊(福井県)に来ていた。
そこは2年前に彼の恋人である諏訪ノゾミが事故死した場所。
彼女への弔いの花を手向けた後、不意に彼は崖から転落してしまう。
死んだと思われた彼だが、気がつくと自宅がある金沢に戻っていた。
突然の出来事に混乱しつつも家に戻るリョウの前に現れたのは存在しないはずのリョウの姉・嵯峨野サキ。
サキとの会話の中で、リョウはどうやら自分が存在しない世界に飛ばされたのだと気づく。そして、この世界にリョウの代わりに存在するのがサキなのだ、と。
2人はお互いの世界の「間違い探し」をはじめていくのだが……。
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このように本作品は、主人公が自分が生まれなかったパラレルワールドに飛ばされる「SFミステリーもの」に分類される。
作品の魅力
本書はとてもビターな作品で、読み終えたあとの爽快感とかは一切ない。
2人が始めた「間違いさがし」は決して楽しいものではなく、物語は常に陰鬱で不穏な空気が漂っている。
登場人物はどんどん打ちのめされていくし、読者の心も合わせて打ちのめされていく。もうフルボッコのサンドバッグ。ワタシも読んでいて心も耳も痛かった。
完全に「気持ちを持ってかれる系」の作品であり、読み終えた読者は重たくやりきれない気持ちに包まれる。だが、その読了感が本作品の魅力だ。
出版社が付けたであろう本書のうたい文句には「青春ミステリーの金字塔!」と書かれており、読んでいるときには「青春」というキーワードに違和感しかなかった。
米澤穂信『ボトルネック』#読了
— ありひと (@rihito_ymoymo) 2019年10月21日
「青春ミステリの金字塔」なんてうたわれているが同著者の『古典部シリーズ』と同じような「青春」をイメージして読むと痛い目に合う。
ハッキリ言って爽やかさはゼロだ。でもその陰鬱で読後の何とも言えない後味はやっぱり素晴らしい。
自分の中での「青春」のイメージは「爽やかさ」とか「甘酸っぱい」だったからだ。
でも読み終わってよくよく考えてみると「青春は苦い」って表現もよく聞く気がする。
この物語の迎える結末のやりきれなさ、残酷さが「苦い」の一言で済むかは置いといて、「青春」が「(甘酸っぱかったり、苦かったりするゆえに)名残惜しいもの」だと定義するのであれば、なるほど、確かにうたい文句は正しい。
それだけ本作品には物語の世界観への名残惜しさを感じる。
そんなわけでオススメの1冊です。
著者の紹介
著者は前回記事でも紹介した米澤穂信さん。この人に「苦い」青春モノを書かせたらピカイチだ。
あとがき
自分が死んだあとの世界を幽霊になって覗いてみたい、そんな妄想をしたことないでしょうか?
ワタシは結構あって、自分の葬式でどれくらいの人が泣いてくれるのかを見てみたいとか子供の頃よく思っていた。(完全に『幽☆遊☆白書』に感化されている)
さすごに今はいい大人なので、実際見ても良いもんじゃなくて、「世界は自分なんかいなくても問題なく回るっていう当たり前の現実」を突きつけられるのだろうなぁとはわかっているものの、それでもたまに考えてしまったりする。
本作品の死んではいないものの、この妄想に近い設定だ。
作品の中でリョウがどんな現実に向き合うのかは読んでからのお楽しみとして、ワタシも皆さんも生きている今を大切にしたいですね。