無機質にアウトプット

読んだ本や観た映画の感想を書いていきます。

【感想】『GOTH 三冊合本版』【ネタバレなし】

「死の瞬間、その人と、その周囲にあるものすべての関係が断たれる……。好きだった人や、執着していたものとのつながりが消える……。太陽や風、暗闇や沈黙とも、もう会えなくなる……。喜び、悲しみ、幸福、絶望、それらと自分との間にあった関係性の一切は失われる……。

 

夏海さん、あなたがここに来るとき、どのような決断を下したのか、僕には手にとるようにわかりますよ……」

 

乙一『GOTH』より 

 

乙一の『GOTH 三冊合本版』を読んだので、感想を綴っておきます。

 

 

元々紙の本で持っていた本作。そんなに厚くないのに文庫版はなぜか『GOTH 僕の章』、『GOTH 夜の章』と2冊に分冊化されてました。

 

2年くらい前の本棚整理の際に「Kindleで買い直そう~」ってことで手放してしまったのですが、番外編である『森野は記念写真を撮りに行くの巻』まで合わせた合冊版がセールになっていたので、迷わず購入。

 

久々の再読でしたが、何回読んでも面白い。

 

本の紹介

本書は短編集になっており、高校生の「僕」とその同級生の女の子、森野夜が6つの異なる事件に巻き込まれる話が描かれます。

 

「僕」と森野は2人とも特殊な性格をしていて、人の残酷さや暗黒面に魅了されています。残虐な殺人事件について調べたり、人が死んだ場所を散策するのを趣味にしていて、言ってしまえば"ヤバい"やつらなんですね。

 

作品のジャンルはミステリーで、いわゆる「どんでん返しモノ」に分類されます。各話何かしらのオチがつくわけですが、そのオチがなかなか鮮やかだったり、中には思わず「え?」と声が出るくらいビックリする話もあります。

 

 

作品の魅力

前述したミステリーとしての面白さも魅力のひとつですが、いちばんの魅力は「僕」と森野の関係性でしょう。

 

一見2人は通ずるものがあり、つまり"ヤバい"もの同士つるんでるわけですが、実は本当の森野は他者とのコミュニケーションが少し苦手な"普通"の女の子だったりします。

 

彼女はいつも無表情で、「僕」以外に友達と言える人はいません。しかし、そんな彼女も幼少時代に経験したある事件さえなければ、普通に女友達と笑い合う生活をしていたでしょう。(その事件についても、作中で語られます)

 

一方で、「僕」は違います。彼は正真正銘、"ヤバい"やつで人間として大切な部分が欠如しています。

 

森野は「僕」に親近感を覚えて、好意に近い人間的な感情で「僕」と一緒にいます。しかし、「僕」は違うわけです。常人には理解できない感情で森野に"固執"してるのです。

 

その固執ゆえに、事件に巻き込まれやすい体質の森野の身を守ったり、事件そのものを解決したりするわけですが、それは愛情でも友情でもなんでもない。しかも守られてる当の彼女は自分が事件に巻き込まれていること、守られていることに全く気づいていない。

 

この関係が面白くて素敵ですね。

 

GOTH[ゴス] デラックス版 [DVD]

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ちなみに、わたしがこの本を初めて読んだのが、丁度高校生の時でした。そのとき並行して読んでいたのが西尾維新の『戯言シリーズ』で、こっちの主人公も「ぼく」こといーちゃんという、大分闇を抱えた欠落人間だったので、影響を受けやすいわたしは「心に闇を抱えてなにか考えてるかわからない、でも頭いい主人公かっけぇぇ!おれもこうなりてぇぇ」と見事にこじらせていきました。

 

その病は今も治る気配はありません。

 

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)

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著者の乙一さんは、16歳で作家デビューした超天才肌の作家さんですね。読了後に切なくも心温まる作品とグロテスクで暗く狂気を感じる作品の両方を書けちゃう人で、ファンからは前者を「白乙一」後者を「黒乙一」なんて呼ばれたりしてます。

 

『GOTH』は「黒乙一」の代表作みたいな作品なので、グロいのが苦手な人はちょっと目を背けたくなる描写があるかもしれません。

 

ちなみに乙一さんのあとがきはいつも面白く、本作も例外ではありません。作品からは想像つかない、かなり軽めの笑える文体で書かれているので、そのギャップもぜひ楽しんでほしいところです。

 

最後にもうひと押ししておきましょう。本書の一番最後に収録されている『声』という話では、本作品の最大の謎が明かされます。その謎というのが、「読者が意識してないけど、言われてみれば〜!」と絶妙な謎の仕込みとタネ明かしがされており、わたしはこの話を読んでしばらく「どんでん返しモノ」にハマりました。

 

色々な小説を読んできた今なら気づきそうなものですが、当時の甘美な衝撃は忘れることができないです。あの刺激を求めて、今でも「どんでん返しモノ」と聞くとかなり惹かれます。

 

興味が湧いた方は是非読んでみてください。